橋梁でなぜ塗装が必要なのか?
鋼の橋梁は一般的に50~100年程度の使用を想定しています。さらに延命化するために塗装は最も安価で耐久力がある工法として選択されています。災害や疲労亀裂を除き、鋼の橋梁を損傷する原因の主たるものは鉄の腐食によって橋を支える鉄部分がさびて減肉し弱くなり崩壊することです。特に海に近い橋や雪が多い地域の橋梁は痛みやすいため、入念な塗装計画が必要となります。また、日本の橋梁の多くは1960年以降に建設されており、補修技術の熟成はこれからだと考えます。よって様々な工法を学術的に検証しながらより良い補修技術を開発熟成していかなければなりません。
鋼材に対する猛毒「塩」
鉄にとって「塩」は、猛毒とも言える腐食の要因です。
- 「塩」は水分を引込、保持する
- 「塩」は導電率を増加させ腐食電流を流しやすくする
- 鉄と化合した「塩」は、酸化され塩酸を放出する
- 「塩」がないさびは、それ以上さび難くする不働態化を起こすが、塩はそれを破壊する
上記理由により「塩」はさびを加速させます。さらに鉄に「塩」が付着し続ける限り、「塩」は減ることなく同じプロセスを延々と繰り返します。特に海岸近くの橋や雪が多い寒冷地域などでは、鋼材の適切な塗装、防食処理が不可欠です。「塩」によりさび(腐食)た橋を補修する場合は、猛毒である「塩」を除去することが最も重要です。因みにISO8501-1の注釈に、ブラスト(乾式)では塩は除去できないとの注記があります。
品質は目的、安全・環境・コストは与条件
1985年に米国で鉛問題が先鋭化します(※日本では2014年頃問題化)。当時米国は世界四位の鉛産出国であり、広範に鉛が使われていました。1920~1940年代に建設した橋梁の本格的な補修が始まった世界初の第一次ピークにそれは起きました。後に日本でも起きた、橋などで使用されていた鉛入りさび止め塗膜の剥離作業による鉛中毒者が発生し社会問題化しました。米国は1991年に苦労の末対策を立て、規格化し、鉛さび止めを廃止しました。与条件である安全・環境の整備に追われコストもその為に増額されました。与条件を達成することは必須です。しかし、多くのリソースをその達成に向けたことにより、本来達成すべき目標である品質の深化にコストも時間も割かれにくい状況になってしまいました。
ブラスト工法-再現性のある施工を
ブラスト工法は、塗膜剥離と素地調整を同時に達成できる優秀な工法です。※鉛などの有害物質の関係で、別種の塗膜剥離工法と組合せて素地調整のみブラストで担保する方法も近年増えてきています。
ブラスト工法は1870年代からあり歴史ある工法ですが、ブラストで得られる素地調整品質を学術的に検証する事が道半ばで、一部を除き経験工学に頼っている現状があります。その為、本来品質管理がとても困難です。同じ道具を使っても、訓練されていなければ同じ品質にはなりません。再現性のある施工をするにはどうしたら良いか?規格への理解と現実的な運用と訓練が必要だと考えます。
素地調整の規格
「素地調整」とは
- ①新しい塗装の早期破壊を引き起こす物質を表面から除去する事(表面清浄度)
- ②新しい塗装の接着性を高める為の適切な表面粗さを得る事(粗さ凹凸)
上記を満足することが素地調整の目的です。
ブラストだと、ISO8501-1ビジュアルブックを用いた表面清浄度判定が一般的ですが、ISO8502-表面の清浄度を評価するためのテスト、ISO8503-ブラスト処理した鋼材の表面粗さ特性、ISO8504-表面調整方法(※素地調整方法)。これらは品質管理者は必読です。